皆さんの好物がリンゴやせんべいだとしたら、当然、歯が丈夫でないと駄目ですよね。
これからお話しするのは、歯が弱って好物の人参を食べることができなくなってしまったロバのお話です。
日華事変の起きた1940年頃、中国の戦場で、物資輸送のために働く一匹のロバがいました。
このロパは一文宇山という北京郊外の地名にちなんで、一文字号と呼ばれていました。
その後、日本軍は、戦場で活躍した一文字号に老後は穏やかに過ごしてほしいと願い、上野動物園に寄贈したのです。
一文字号は、上野動物園で子供たちを乗せた馬車を引いて人気を集めていましたが、寄る年波には勝てず、だんだん弱ってきました。
動物園での生活も10年以上が経ち、人間の年で言うと約90歳。どうやら、前歯が著しく悪くなり大好物の人参を食べることが出来なくなったことが原因だったようです。
戦場で一生懸命働いた一文字号が毛並みの色ツヤや眼もわるくなり、今やすっかり元気がなくなってしまいました。
その様子を見て心を痛めた周りの人たちは、どうにか元気を取り戻して欲しいと知恵を絞り、入れ歯を作ってあげたらどうか?という結論に達しました。そこで、動物のために入れ歯を作るという前代未聞の作業を無理を承知で歯医者さんに頼みこんだそうです。
幸いにも引き受けてくれた歯医者さんによって作られた特注の入れ歯は、一文字号に贈られました。
一文字号は入れ歯を□にはめられるやいなや、与えられた人参をパクリ!!ここで不思議なのは、□にはめられた異物が入れ歯と知るはずもないのに、「これで噛める」という認識を一文字号がすぐにしたことです。
咀噴の感触を本能的に取り戻したのでしょう。
この後、一文字号は入れ歯のおかげで健康を取り戻し、子供たちにもかわいがられながら過ごしたそうです。
人間にとっても動物にとっても、食べ物をよく噛むことが健康の基本であり、好きなものを食べることができるというのは本当に幸せなことです。
いつまでも健康で大好きな物を自分の歯で食べられるよう、毎日のお口と歯のケアを心がけましょう。
参考資料・・・(財)東京動物園協会発行
「どうぶつと動物園」
1964年2月号 |